こんにちは、FPの詠子です。今日は「海外で払った医療費、医療費控除にできるの?」という質問にお答えします。実はこれ、旅行か赴任かで結論が正反対になるんです。
海外旅行先での急な発熱やケガで、思いがけず医療費を支払うことがあります。先に結論をお伝えすると、日本の居住者のまま海外旅行中に支払った医療費は医療費控除の対象になり、1年以上の予定で海外赴任して非居住者となっている期間に支払った医療費は、原則として対象になりません。分かれ目は支払った場所ではなく、あなたがそのとき税法上の「居住者」だったかどうか。落とし穴や保険との関係まで、まとめて整理しますね。
医療費控除は、税金の計算のもとになる「所得」を引き下げる所得控除です。しくみの全体像がまだの方は、先に医療費控除とは?基本のしくみをどうぞ。
📊 まずは結論:状況別の早見表
| 状況 | 医療費控除の対象になる? |
|---|---|
| 海外旅行中に現地で払った医療費 | 対象になる(居住者のまま) |
| 1年以上の予定で海外赴任し、非居住者となっている期間に本人が払った医療費 | 対象外(非居住者のため) |
| 赴任中に一時帰国して日本の病院で払った医療費 | 対象外(日本で払っても非居住者のため) |
| 赴任の出国前・帰任後(居住者期間)に払った医療費 | 対象になる |
「海外か日本か」で決まるのではない、というのが最大のポイントです。では、その分かれ目である「居住者」を見ていきましょう。
🌍 分かれ目は「居住者」かどうか
所得税では、国内に住所がある(または引き続き1年以上居所がある)人を「居住者」、それ以外を「非居住者」と区分します。医療費控除を使えるのは居住者です。非居住者に認められる所得控除は原則として雑損控除・寄附金控除・基礎控除に限られ、医療費控除は含まれません。
- 海外旅行:通常の短期旅行で、日本国内に住所(生活の本拠)を残している場合は、旅行中も居住者のままです
- 海外赴任:1年以上勤務する予定で出国する場合、実際の滞在期間ではなく「出国時点の予定」で判定され、一般的に出国の時から非居住者になります
- 予定が変わったら:赴任が1年未満に短縮された場合は明らかになった日以後は居住者に戻り、逆に1年以上に延びた場合は、明らかになった日以後が非居住者になります。区分の変更は過去にさかのぼらないので、過去の分の確定申告をやり直す必要はありません
✈️ 海外旅行中の医療費:円換算して合算できます
国税庁の質疑応答事例では、海外旅行中に子どもがケガをして現地の医師にかかったケースについて、外国の医師による診療・治療のために支払った費用も、医療費控除の要件を満たす範囲で対象になることが明示されています。実務のポイントは2つです。
- 円換算:現地通貨で払った分は、支払日の「TTM」(電信売相場と電信買相場の仲値=銀行が公表するその日の基準レート)で円換算します
- 証拠の保管:現地の領収書など診療内容が分かる書類は、明細書作成の根拠として保管を。外国語の書類は、治療内容や支払先を説明できるようにしておくと安心です
例:ハワイ旅行中に急な腹痛で受診し、現地で500ドルを支払った場合
支払日のTTMが1ドル=150円だったとすると
500ドル × 150円 = 75,000円を、その年の医療費として日本国内分と合算
※レートは説明用の例です。実際は支払日のTTMを金融機関の公表レートで確認し、保険などで補填された分があれば差し引いて計算します
🧳 海外赴任者の3つの落とし穴
- ① 一時帰国して日本の病院にかかっても対象外:一番の見落としポイントです。判定は「海外か日本か」ではなく「そのとき居住者か非居住者か」。非居住者である本人が一時帰国中に払った医療費は、日本での支払いでも原則として対象になりません
- ② 出国前・帰任後の分は対象:国税庁の解説でも、帰国した年の医療費控除は「居住者期間に支払った金額」で計算すると明記されています。基準は治療日ではなく支払った時期。出国・帰任の年は、居住者期間に支払った分を(ほかの要件を満たす範囲で)申告しましょう
- ③ 出国の年の申告方法に注意:出国前の医療費の控除には確定申告が必要です(年末調整では扱えません)。納税管理人を選任しない場合は原則として出国時までに申告、選任して税務署に届け出れば、通常の申告期限までに申告できます
🛡️ 忘れずに:保険で戻った分は差し引きます
保険金や給付金のうち、医療費を補填する目的で支給された金額は、対応する医療費から差し引きます。代表的なのは次の2つです。
- 海外旅行保険の保険金:治療費用として受け取った保険金は、「その治療にかかった医療費」から差し引きます。保険金が治療費を上回っても、超えた分を他の医療費(日本の病院代など)から差し引く必要はありません
- 健康保険の「海外療養費」:やむを得ず海外の医療機関で受診した場合、日本の公的医療保険に申請すると一部が戻る「海外療養費」があります。支給額は原則として、日本で同じ治療を受けた場合の医療費が基準(実費のほうが低ければ実費)なので、払った額の一定割合が戻るわけではありません。受け取った分は差し引いて計算します。申請には期限(2年)があるので、帰国後は早めに加入先へ確認を
差し引いた結果、控除の対象額が小さくなることもありますが、その分は保険や公的医療保険でカバーされたということ。医療費控除だけで損得を判断しなくて大丈夫ですよ。
🔍 円換算した分も合算して、軽減額を確認しましょう
🌸 医療費控除シミュレーター 🌸
海外分(TTMで円換算し、補填された保険金・海外療養費を差し引いた額)を国内の医療費と合算して入力すれば、所得税・住民税がいくら安くなるかが一目で分かります。
医療費控除シミュレーターを使ってみる →🎀 まとめ
海外で払った医療費の医療費控除は、「どこで払ったか」ではなく「そのとき居住者だったか」で決まります。旅行中は居住者のままなので、支払日のTTMで円換算して対象にできます(領収書の保管を忘れずに)。1年以上の予定の赴任は一般的に出国時から非居住者となり、非居住者期間に本人が払った分は、一時帰国中の支払いも含めて原則対象外です(出国前・帰任後の居住者期間分は対象)。保険金や海外療養費で補填された分の差し引きもお忘れなく。出国・帰国の年や予定が変わった年は判定が複雑になりやすいので、税務署や税理士さんに確認すると安心ですよ。
📚 参考文献